不妊治療について
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不妊治療について

体外受精-胚移植(IVF-ET)

1.はじめに

 体外受精とは正式には体外受精-胚移植(in vitro fertilization-embryo transfer:IVF-ET)と呼ばれ、卵子を卵巣から直接採取して体外で精子とかけ合わせ、得られた受精卵を母親の子宮内に戻して妊娠を成立させる治療法です。この方法は、一般不妊治療と異なり保険適応外の治療ですが、現在本邦では年間数万人以上の患者さんがこの治療を受け、顕微授精や融解胚移植を含めると一年間に一万人以上もの赤ちゃんが誕生しています。現在までにわが国だけでも体外受精で生まれた子どもの数は20万人を超え(世界では2008年に400万人超)、2007年には誕生した赤ちゃんの実に55人に1人が体外受精による赤ちゃんとなっており、すでに日常的に広く定着した治療法であると言えます。
 体外受精は1978年にイギリスのグループが最初に成功して以来(2010年ノーベル医学生理学賞受賞)、瞬く間にその技術が世界中に広まり、現在では顕微授精・透明帯開孔法や胚盤胞移植法など様々な関連技術の進歩もみられ、安定して行うことが可能な状況にあります。また生殖に関わるこれらの治療法を総称して生殖補助医療(Assisted Reproductive Technology:ART)、もしくは高度生殖医療と呼んでいます。

 体外受精に先立って、まず不妊原因の検索・治療が行われます。薬物による治療、腹腔鏡・子宮鏡・卵管鏡などの手術療法、人工授精など様々な方法で原因の除去に努め、極力自然に近い形での妊娠を目指すわけですが、それでも妊娠に至らない場合が体外受精の適応となります。不妊症の中で、一般不妊治療で妊娠する人の割合は約50%と言われており、そのほとんどが治療2年以内(70%以上が1年以内)で妊娠しています。従って、一般不妊治療を2年間続けても妊娠しない場合には体外受精を考慮すべきであると思われます。ただし年齢が高くなれば卵の質が悪くなったり、排卵誘発を行っても卵がなかなか発育しないなどの理由で妊娠率が低下してくるため、35歳以上では1年間の一般不妊治療で妊娠に至らない場合には、早めの体外受精を考慮します。
 体外受精のメリットは妊娠率が高いだけでなく、不妊の本当の原因が明らかになることとも言えます。通常の不妊症検査で異常が見つからなかったご夫婦でも、体外受精を行ってみると、それまで判らなかった卵の質、精子の受精能力、子宮の着床環境などについて問題があるのが明らかになることが少なくありません。
 体外受精で妊娠される方のうち、その多くが3回の胚移植までに妊娠します。初回の体外受精で妊娠できなくても、その原因を診断し次回の方法を考えます。通常の体外受精法は卵巣刺激を毎月行うことはできませんので、3回採卵を行うには約1年かかります。ただし年齢の高い方や若くても卵巣機能が悪い方は、1回の採卵で取れる卵の数が少なく生理周期による卵の質の差も大きいので、通常よりも多くの回数の採卵を行う必要があります。そのような方も卵巣刺激方法を工夫して、休む期間を短くする(毎月・隔月採卵を行う)ことで同様に約1年を目途に治療をすすめます。
 最終的に妊娠を諦めなければならないご夫婦の多くは、妻の年齢、卵巣機能の低下、子宮内膜症の進行例などで卵の質が極端に悪い例、また精巣(睾丸)にも全く精子のいない無精子症や精子の遺伝子に問題のある例です。胚移植を計5回行っても結果が出なかった時には、今後の治療の継続についてよく相談させていただくようにしています。
 当院では治療に精通した医師が卵巣刺激・採卵手術・胚移植を行います。また、現時点で考えられる最高の培養環境を整えており、熟練した胚培養士が的確な精子調整・卵子および胚操作を行います。
 長い間妊娠しなかったご夫婦では、真の不妊原因が複数あることが少なくなく、根気のいる治療となってしまうこともありますが、同じ方法をただ繰り返す体外受精でなく、ご夫婦に適した方法を選んで全力で取り組んでまいります。

2.体外受精・胚移植

  • 体外受精の対象者
  • 卵管に原因がある場合(卵管因子)
  • クラミジアなどの感染症や子宮内膜症などによる癒着で両側の卵管が閉塞している場合(その卵管に体液が溜まれば卵管溜水症)、あるいは閉塞していなくても癒着によって卵管の動きが制限されてしまい排卵された卵子を受け取れないピックアップ障害が疑われる場合、子宮外妊娠などで卵管切除の手術を受けられている場合など。


  • 精子に原因がある場合(男性因子)
  • 精子の数が少ない(乏精子症)、精子がほとんど動かない(精子無力症)などが適応になります。重症の男性不妊の場合は顕微授精の適応になります。


  • 原因がはっきりしない場合(機能性不妊)
  • タイミング法、人工授精法いずれも妊娠する方の80%以上は5~6回のうちに妊娠されます。もちろんそれ以降に妊娠することもありますが、6回以上行って妊娠に至らない場合は機能性不妊と考えられます。この中には体外受精を行って初めて診断される受精障害や着床障害の方が含まれます。


  • 不妊治療を急ぐ必要がある場合
  • 最も多いのは年齢が高い場合です。体外受精の成功率は35歳以上で少し下がり、40歳以上では顕著に低下します。また他施設ですでに不妊治療を十分に行ってこられた方も対象になります。

 排卵誘発で卵が採取できれば、特に女性の年齢制限はありませんが、45歳を超えると妊娠・出産の可能性は殆どありません。


  • 体外受精の方法
  • 治療前の準備
  •  体外受精を実施する月までは通常の治療を続けて頂いて結構ですが、直前の周期まで強い卵巣刺激を続けていると、体外受精の周期に卵胞の発育が不十分になることがありますので、体外受精の前の少なくとも3ヶ月間は卵巣を休ませておくのが良いと考えられます。
     前周期はピルで卵巣を休ませたり、前周期高温期から後述のブセレキュアや少量のピルを服用していただいたりすることがあります。


  • 卵巣刺激(排卵誘発)
  •  体外受精を成功に導くには、できるだけ良質の成熟卵を採取する必要があります。排卵してくる卵は、そのすべてが赤ちゃんになれる良質なものではないため、自然で発育してくるたった1個の卵を採取するのでは非効率です。そこで排卵誘発剤(FSH/HMG製剤、クロミッド)を使用して卵巣を刺激し、多くの卵を発育させます。しかしそうすると通常より早く、卵が未熟なうちに排卵してきてしまう傾向になるため、自然排卵が起こらないようにする必要があります。



    FSH/HMG製剤:強力な下垂体卵巣刺激ホルモン注射剤。連日または隔日で筋肉注射します。精製方法の違いによって、2種類の下垂体ホルモン(FSHとLH)の配合比が異なりますので、その特性を利用して様々に組合わせて使用します。LHとFSHが1:3の比で含まれる注射薬(HMGフジ)、LHとFSHが1:1の比で含まれる注射薬(HMGテイゾー)、LH混合をとても低く抑えた精製FSH製剤(ゴナピュール)、遺伝子組み換え自己注射FSH製剤(ゴナールF)などを使用します。

    クロミッド:弱めの経口排卵誘発薬。タイミング法や人工授精法では月経5日目から5日間の服用としていますが、体外受精の卵巣刺激では多くの場合、月経3日目から1日1錠で内服を開始し、卵が成熟しきるまで指示があるまでずっと長期間使用します。これは卵巣を刺激する効果に加えて、自然排卵が起こらないようにする作用があるためです。子宮内膜が薄くなって着床しにくくなったり、頭痛、かすみ目などの副作用が出ることがあります。

     卵巣刺激によって多数の卵を採取した方が当然治療成績は高くなります。当院では卵巣機能が保たれている方にはまず、ロング法/アンタゴニスト法を選択しておりますが、強く刺激しても多くの卵が採取できないと予測される方(年齢が高い方、卵巣の手術既往がある方など)には、あえて弱めの誘発法(クロミッド/クロミッド-HMG法など)を用いたり、自然周期での採卵をすることもあります。また強力に誘発せざるを得ない患者さんにはショート法/ウルトラショート法を用いることもあります。つまり患者さん一人一人に適切な誘発法を選択する必要があり、AMH(抗ミュラー管ホルモン)採血の値をひとつの選択基準として使用しております。主な卵巣刺激法には以下の方法があります。


    ◆ロング法 ブセレキュアという点鼻薬を長期間使用して自然排卵を防ぎます。体外受精を実施する前周期の高温期7日目頃より開始して月経が来た後も卵が成熟しきるまで使用し続けます。FSH/HMG製剤は月経3日目頃より投与開始します。

    ◆ショート法 ブセレキュアは投与初期に卵巣刺激ホルモンを上昇させる作用があるためそれを利用してロング法より更に強い刺激をすると同時に自然排卵も抑える方法です。ブセレキュアを月経1~2日目から開始して卵が成熟しきるまで使用し続けます。FSH/HMG製剤は3日目から投与開始します。

    ◆アンタゴニスト法 ブセレキュアに替わり、作用機序の異なるセトロタイドという注射で自然排卵を抑えます。月経3日目からFSH/HMG製剤を投与開始し、卵胞径が14mmに達した日からセトロタイドも卵が成熟しきるまで連日注射します(通常3~4日間)。クロミッドを併用することがあります。

    ◆クロミッド-HMG法 月経3日目からクロミッドを1日1錠卵が成熟しきるまで毎日服用します。月経5日目から隔日でFSH/HMG製剤を投与します。誘発の最後の方だけセトロタイドを使用することがあります。


     ブセレキュア: GnRHアゴニスト製剤といい本来子宮内膜症や子宮筋腫などの治療に用いられる薬ですが、その作用は長期間使用することで脳下垂体の卵巣刺激ホルモンの分泌を抑制することにあるため、卵が未熟なうちに勝手に排卵してしまわないように排卵を上手くコントロールする目的で主に使用します。また上述のショート法ではその投与初期の卵巣刺激ホルモン上昇作用も利用しています。8時間毎1日3回点鼻を左右の鼻へ行い(計6回点鼻)、指示までずっと続けます。


  • 採卵時期の決定
  •  月経7~10日目頃より経膣超音波やホルモン採血を行い、卵胞の発育を調べます。そのためこの時期は頻回に外来受診をして頂くことになります。卵胞1個あたりの血中エストロゲン値が200~300pg/mlに達し、卵胞の直径が16~18mmのサイズに達した時点でHCGという卵子の最終的な成熟を促す注射をします(本来はLHの注射をすべきですが、LHだけの製剤はまだ実用化されていないため、LHと交差性があるホルモンであるHCGをかわりに投与しています)。ブセレキュアを続けていた場合はその時点で点鼻は終了します。HCG注射後36時間で排卵が起こるため、HCG注射は夜22時頃行って翌々日の朝8時頃、すなわち排卵直前となる34~36時間後に採卵を行います。
     またアンタゴニスト法やクロミッドHMG法の場合はHCG注射の代わりにブセレキュア点鼻薬を夜23時と24時にそれぞれ左右の鼻へ点鼻し(計4回)、翌々日に採卵とすることが多いです(HCGを使うこともあります)。これはブセレキュア投与初期の卵巣刺激ホルモン上昇作用のもうひとつの利用法で、LHが上昇するためHCG注射と同様に卵子の最終成熟が促されます。
     点鼻薬・排卵誘発剤の効果は個人差があり、同じ量の薬でも良く効く人と、そうでない人とがいます。従って、一律に何回注射を打ったら採卵になると決められませんが、HMG注射開始より10日前後で採卵日が決まる人が多いです。
     どうしても十分な数の卵胞が発育しない場合(成熟卵胞が1~2個以下)や、予想より早く排卵してしまった場合は、採卵を中止せざるを得ないこともありますので、予めご了承下さい。


  • 採卵
  •  排卵直前になると成熟した卵子は卵胞の内壁から剥がれてきますので、このタイミングで超音波ガイド下に細い針を経膣的に卵巣に穿刺して卵胞液とともに卵子を吸引します。わずかに生じる痛みを抑えるため静脈麻酔下に採卵しますので、前日の夜21時以降は一切飲食は禁止となります。ただし1~2個と少ない採卵の場合は極細径の採卵針で採卵を行うため、麻酔は行いません(痛みも採血程度です)。
     採卵日当日は、朝7:30に6階リプロダクションセンターへご来棟いただき、8時より採卵を行います。採卵に要する時間は卵胞数や筋腫・卵巣嚢腫などの合併の有無によって異なりますが、約15分程度です。その後はお昼頃まで安静いただき、診察・お話の後にお帰りとなります。採卵数は1個~20数個と個人差がありますが、まれに0個のこともあります(自然排卵が起こってしまった場合や、卵が十分成熟していなかったり卵巣機能悪化で卵胞が空胞であった場合などは、卵胞を刺しても卵子が吸えてこないことがあるためです)。


  • 卵子を探す・成熟度判定・前培養
  •  吸引採取された卵胞液をシャーレに移し、クリーンベンチという清潔な環境内で顕微鏡下に卵子を探します。卵子の直径は0.1mm位で肉眼でも観察できるくらいの大きさです。卵子は顆粒膜細胞(卵丘細胞)に包まれており、それごと愛護的にピペットで取り上げ、培養液に移して血液や卵胞液を洗浄します。きれいな培養液に移した後に培養器に入れます。
     卵子はその成熟度にバラツキがみられることがあり、未熟なものは受精能を獲得するまでの間、数時間培養します。また成熟度に応じて更に追加培養されることがあります。



  • 精子の調整
  •  採卵日当日朝、ご主人はシャワーを使用して陰部を清潔にしておいて下さい。ご自宅を出る直前に精液を採取していただき、来院後、6階リプロダクションセンター胚培養室の呼び鈴を押して胚培養士に提出して下さい。遠方の方は胚培養室の横に採精室を用意しておりますので、同様に培養室の呼び鈴を押して下さい。胚培養士がご案内致します。
     禁欲期間は3~4日程度が望ましいと考えられます。その後洗浄処理・良好運動精子の分離を行います。シリカ粒子を用いた成熟精子分離法、良好運動精子回収のためのswim-up法などを行った後、媒精まで培養しておきます。なお当日の精液の状態によってはもう一度採っていただく場合があるため、ご主人は出来る限り共にご来院いただき、精子に問題ないことが確認できるまでは病院で待機してください。


  • 媒精
  •  卵子への媒精は精子の運動性に応じて、精子濃度10~数十万匹/mlになるように卵子に加えます。当日の精子の状態が悪い場合や、受精障害の存在がわかっている場合や疑わしい場合などでは、精子1匹をマイクロピペットで卵子に直接注入する顕微授精を行います(「顕微授精について」をご参照下さい)。また採卵された卵のうち半分を媒精に、残り半分を顕微授精にする(splitと言います)こともあります。


  • 受精確認(受精後1日目)
  •  媒精の18~20時間後(採卵翌朝)に培養液を交換し、卵子を顕微鏡下に観察します。正常な受精が成立しつつある場合には、卵子と精子に由来し遺伝情報が存在する2個の前核が観察できますが、時に3個の前核が観察されたり(多精子受精)、全くみられない未受精の状態であったりします。時間が経つと判定が困難になるため、こういったものを分けて培養しておく必要があります。通常受精率は60~70%程度ですが、卵子・精子の状態により受精率は異なります。まれに受精が遅れ翌日(採卵後48時間)に確認される場合もあります。受精率が極端に悪い場合には、次回より顕微授精を検討する必要があります。



  • 分割確認(受精後2~3日目)
  •  受精後、胚は細胞分裂が始まって2細胞期、4細胞期、8細胞期・・・と分割発育していきます。2日目では4細胞期、3日目では8細胞期くらいが良好な発育となります。分割スピードが良好で、1つ1つの割球の大きさが均等で張りがあり、フラグメンテーション(細かく細分化された細胞質の存在)の少ないものが良好胚ですが、不良とした胚でも正常な妊娠出産がみられたり、追加で数日培養することで良好な発育を示すこともあり、単純には判断できません。


  • 胚移植
  •  胚移植には採卵後2~3日目に行う初期胚移植と5日目に行う胚盤胞移植(「胚盤胞移植法について」をご参照下さい)があります。方法は人工授精に似ていますが、経腟超音波ガイド下に極めて繊細なカテーテルを慎重かつ確実に子宮頚管部から子宮内腔へ進めて、極少量の培養液と共に胚をそっと置いてきます。胚移植に痛みは伴わないため麻酔は必要なく、少し安静をとったあと帰宅できます。
     全く受精が見られなかった場合や良質胚が出来なかった場合、胚移植は中止となり今後の方針について医師から説明があります。
     移植する胚の数は、原則1個としております。もちろん移植胚数を多くすれば妊娠率が上がりますが、周産期リスクの高い多胎妊娠が増えてしまいますので、日本産科婦人科学会の勧告に従い当院ではこれを遵守して治療にあたらせて頂きます。ただし年齢・治療回数を考慮して、2個までの胚移植は可能とされております。そのため、胚移植できない余りの良好胚が生じることがあります。その場合、次周期の治療や2人目3人目のご妊娠のためにご希望により胚の凍結ができます。良好胚の凍結融解胚移植の成績は非常に高いため、基本的にはすべての余剰良好胚の凍結をお勧めしております(「胚の凍結保存と融解胚移植について」をご参照下さい)。



  • 移植後のホルモン補充療法
  •  胚移植後は、激しい運動でなければ仕事を含めて通常通りの生活をして問題ありません。安静にしていることが妊娠率を高めることは無いとされています。ただし、卵巣過剰刺激症候群が発症した場合には安静が必要となります。
    移植後には胚の着床を助けるために黄体補充療法として黄体ホルモンの内服や注射、膣座薬の使用などを行います。同時に卵胞ホルモンの補充を行うこともあります。卵巣刺激の際にGnRHアゴニスト製剤を使用した場合には、黄体刺激ホルモンであるLHの分泌抑制が起こり通常の黄体機能が維持されないため、特に十分な補充が必要で、場合によっては妊娠判定後まで連日の注射を必要とします。黄体補充療法としてHCGを用いることもありますが、その場合は卵巣過剰刺激症候群を悪化させることがあるため、尿量の減少や腹満感の出現などに、慎重に気を配る必要があります。


  • 妊娠判定
  •  胚移植後2週間で血中HCGを測定し、妊娠の有無を判定します。残念ながらご妊娠に至らなかった場合は、通常2~3ヶ月あけて次回の体外受精を行うこととなりますが、胚凍結を行った場合なども含めて次回の予定は医師との話し合いにより決定します。



3.顕微授精

 通常精子は卵子の透明帯(殻)を自力で通過して卵細胞に到達し、受精が成立します。しかし体外受精をしても、精子の数が少ない人や運動率の悪い人は受精をしない場合が多く、また精液検査では正常でも受精しないことがまれにあります。更に、卵側の質の問題で精子が良くても受精しにくいという場合もあります(原因不明受精障害)。

 そこで顕微鏡と特別な装置を使用して卵細胞質内精子注入法(intracytoplasmic sperm injection: ICSI 「イクシー」と呼びます)で受精を試みます。これはマイクロマニピュレータという機械を使って、極めて細いガラス管に精子を一匹だけ吸引し、これを直接卵細胞質に刺し入れ受精させる方法です。通常の体外受精でほとんど受精しなかった患者さんにこの方法を用いた場合、平均で約50%の受精率が得られ、9割以上の方に受精卵が確保できることが期待できます。また無精子症と診断された人でも精巣(睾丸)から精子を見つけられればこの方法で妊娠が可能です。このようにICSI法は1992年に発表されて以来急速に普及が進み男性不妊症のほとんどが解決され、現在本邦では通常の体外受精とほぼ同数の治療が行われております。

 なお媒精を行う通常の体外受精を予定していても、採卵当日に精子の状態が良くない場合に急遽、顕微授精に切り替える場合があります。そのため別途記載して頂く体外受精同意書では、その場合に顕微授精を希望されるかどうかの意思を、事前に確認しております。




4.透明帯開口法(アシステッドハッチング:AHA)

 よい受精卵を子宮に戻してもなかなか着床(妊娠)しない人のための治療技術です。

 体外受精を行い受精した初期分割期の胚を子宮内に戻しますと、採卵5~6日後には胚盤胞という状態まで進み、最終的に胚は卵の殻(透明帯)を破って出てきます。そして子宮内膜の状態が十分に着床の準備をしている時期(たったの2日間ほどしかありません)に透明帯から脱出した胚が子宮内膜に進入して来ると着床(妊娠)が成立すると考えられています。



 この卵の殻である透明帯が、硬くなったり厚くなったりしている人がいます。そして年齢の高い人ほどその傾向があります。また凍結保存した胚も透明帯が硬くなることが知られています。この場合、胚が透明帯を破るのに時間がかかり、子宮内膜に進入するタイミングが遅くなります。すると子宮内膜はすでに着床の準備を終えてしまっているため、せっかく子宮内膜に進入しても着床には至らないと考えられます。

 そこで考案されたのが透明帯開口法(AHA)です。これは顕微授精の技術を応用し、胚を移植する直前に透明帯を切開して数十ミクロンの穴を開けます。すると胚は透明帯を破りやすくなり、着床も早めに起こり妊娠率が向上します。透明帯を傷つけることに不安を感じるかもしれませんが、透明帯はただの卵の殻でいずれ溶けてなくなるもので赤ちゃんの一部にはなりませんのでご心配はいりません。

AHAの対象となるのは以下の場合です。
①良好胚を移植しても妊娠しなかった人
②年齢が40歳以上の人
③移植しようとする胚の透明帯が厚い人
④凍結融解胚移植

顕微授精の技術を応用し、透明帯に切開を加えます

5.胚盤胞移植法

 自然妊娠の場合、卵は卵管内で受精し、受精卵は分割を繰り返しながら卵管内を進み、最終的に排卵後5~6日で胚盤胞と呼ばれる状態となって子宮内にたどり着きます。そして子宮に到達後約1~2日後に子宮内膜に着床することが知られています。



 通常の体外受精-胚移植では、この自然妊娠とは違い、胚は排卵後2~3日目(自然妊娠ではまだ卵管内に胚がある時期)に子宮内に戻されます。これはヒトの場合、胚は子宮内でも卵管内同様に発育できるため、体外で長く培養するよりも早めに子宮内に戻す方が良いと考えられたからです。
 しかし何度も良好な胚を戻しても着床できない人の中には、子宮内環境が悪いため胚が発育できないと推測される人がいます。また排卵後2~3日目の初期分割期胚は、良好胚でも発育が後に停止するものや逆に悪めに見えても良好胚盤胞になるものがあり、真の良好胚を選びにくいために、妊娠に至っていないと推測される人がいます。

 これらの方々には胚を体外で長期に胚盤胞まで培養してから移植すると(もしくは凍結保存して次周期以降、より状態の良い子宮内膜を作成してから移植:「胚凍結保存と融解胚移植について」をご参照下さい)、高い妊娠率が得られます。

 この方法は非常に理想的と考えられる反面、胚盤胞まで発育しないため胚移植(もしくは胚凍結)できない場合があることが問題となります。一般的に良好な受精卵でも体外で胚盤胞まで発育するのは約50%と言われています。そのため採卵および受精卵の数が少ない場合や、胚の質が不良と考えられる場合は、胚盤胞まで発育しないため胚移植が中止(もしくは胚凍結ができない)となる例があります。


6.胚の凍結保存と融解胚移植

 体外受精や顕微授精の治療において、排卵誘発・採卵を行った結果、良好な受精卵が数多く得られることがあります。この場合、胚移植後にも移植しない余剰胚が生じることとなり、これらを次回の治療のために凍結して保存しておくことができます。


  • 凍結保存のメリット
  • 1回の採卵で複数回の移植が可能となる
  • 多胎妊娠を減らすことができる(日本産科婦人科学会としては移植胚数を原則1個、年齢や治療回数を考慮して2個までは許容するとしております。当院ではこれを遵守して治療にあたらせていただきます)
  • より生理的なホルモン環境下や良い体調の時などに移植できる
  • 卵巣過剰刺激症候群の発生が予想される時、次周期以降に胚移植を延期し、その悪化を予防できます(妊娠した場合更に悪化するため)

 本邦においては、受精卵の凍結・融解胚移植により、年間約16000人の児が誕生しており、その有益性・安全性はほぼ確立されています。この方法は良好胚盤胞のみを凍結保存し、より生理的な環境で融解胚移植しますので、新鮮胚移植よりも高い妊娠率が得られます。


  • 胚凍結の時期

 凍結を行う受精卵の時期としては、前核期(受精翌日)、2~8細胞期(受精2~3日目)、桑実胚あるいは胚盤胞期(受精4~6日目)すべての時期で可能であり、余剰胚のグレードや数により凍結時期を決定しますが、胚盤胞期で凍結を行うことが多いです。


  • 凍結方法

 細胞を凍結すると、その中の水分は凝固して氷晶を形成し、約10%体積が増加すると言われています。この水分の膨張が細胞膜や細胞内の微細構造を破壊してしまうため、それを防ぐ凍結法として、現在ではvitrification法(ガラス化法)という急速に冷却・凍結する方法が行われています。高濃度の凍結保護剤(高濃度のエチレングリコール、ショ糖、フィコール)を含む溶液中に胚を濃縮した後、液体窒素内へ入れ急速に温度を下げることで全てのものを一瞬にしてガラス化(非結晶化)状態にし、細胞の破壊を防ぎます。凍結した胚は液体窒素タンク(-196℃)内で保存します。




  • 融解方法

 移植が決まり融解する時は液体窒素内から常温へ急速に移して温度を上げ、胚の融解用に調整した培養液を用いて耐凍剤を除去し、回復培養を行います。


  • 融解胚移植の方法

 以下の2通りの方法で子宮のホルモン周期をあらかじめ合わせておいて、最適なタイミングで胚移植を行います。


  • 自然周期による移植法
  •  卵胞ホルモン値と超音波による卵胞径の測定を適宜行って卵胞成熟を確認し、自然排卵の指令が脳下垂体から出る前にHCGの注射またはブセレキュア点鼻をします。その後36時間で排卵が起こるため、その予想排卵時刻に、凍結した周期の採卵から凍結までの時間を加えた時刻が融解胚の移植時刻となります。ただし、融解胚は成長が開始するまで数時間を要すると言われており、移植の数時間前に解凍して回復培養を行います。そして良好な胚を移植します。
     この方法のメリットは自然排卵を利用するためホルモン補充が最小限で済むところにあります。しかし、きれいな自然排卵が確認できずホルモンが不安定となった場合や、排卵日が特定できなかった場合には胚移植がキャンセルとなったり、あらかじめ胚移植の日を決めておくことができない(自然排卵日は変動するため)といったデメリットがあります。

  • ホルモン補充周期での移植法
  •  排卵障害や子宮内膜の発育障害がある時に用いられる方法で、GnRH製剤により自然排卵を抑え、卵胞ホルモンおよび黄体ホルモンを補充することにより、子宮内膜を十分厚くした上で胚を移植します。自然周期で子宮内膜が薄い場合や、卵巣機能が悪くホルモン動態が不安定な方、自然排卵がしにくい方でもホルモンを極めて安定させて移植が可能となること、人工的に周期を作るため移植予定日をあらかじめ決めておくことが可能であることがメリットですが、自然排卵後に出来るホルモンを分泌する黄体がないため、胎盤からのホルモンが分泌されてくる妊娠9~10週までの長期間ホルモン補充を必要とすることがデメリットです。


7.全胚凍結法

 全胚凍結法とは、排卵誘発-採卵-媒精(または顕微授精)-胚盤胞培養して出来た良好胚盤胞を全て凍結し、その周期での胚移植は行わず、別の周期に子宮の着床条件を整えて融解胚移植する方法です。
 凍結胚移植法の利点は、新鮮胚移植(排卵誘発周期にそのまま移植すること)とは違う子宮の着床条件下で胚移植できることです。通常新鮮胚移植時は、複数の卵を採取するために卵巣刺激した後なので、ホルモンが過剰に分泌し、胚移植時における子宮内膜の状態が非生理的となって着床に適さない場合があります。このような人は、新鮮胚移植で妊娠しなくても余剰胚で凍結胚盤胞が確保されれば、次周期以降のより自然に近い子宮内膜の時に融解胚盤胞移植を行うことで妊娠されるわけです。卵巣機能が良く、沢山の胚盤胞が出来る人はこの方法で8割以上の方が妊娠されますが、卵巣機能が悪く、採卵数が少ないあるいは採卵数は多くても胚盤胞まで発育する胚が少ないか無い人の場合は凍結融解胚盤胞移植ができるチャンスが少なくなってしまいまいます。
 そこで新鮮胚移植を2回以上試みても妊娠しなかった方に対して、1個でも胚盤胞が出来れば全て凍結し、採卵周期以後の周期に融解胚移植します。良好胚盤胞が複数個確保されるまで何回か採卵を繰り返すこともあります。
 高い妊娠率が得られる方法ですが、あくまでも凍結可能な胚盤胞ができることが条件となりますので、胚盤胞まで発育しない方にはこの方法は使えず、妊娠する可能性は低いと推測されます。


8.二段階胚移植法および子宮内膜刺激胚移植法(SEET法)

 形態の良好な胚を繰り返し移植しても、ご妊娠に至らない患者さんがいらっしゃいます。二段階胚移植法や子宮内膜刺激移植法(SEET法)は、このような着床障害と考えられる方に対してトライすることがある方法です。
 二段階胚移植法の方法は、受精後2日目の初期胚をまず1個移植し、更にその3日後(受精後5日目)に胚盤胞を1個移植する方法です。着床という現象は、胚と子宮内膜の相互の応答によって成立すると考えられているため、はじめに移植された胚が子宮内膜と相互応答して着床に適した状態に内膜を誘導し、続いて移植される胚盤胞の着床率が高まることを期待できます。ただし、移植する胚の数は原則1個ですので、合計2個の胚を移植するこの方法を行うことができるのは、「良好胚を反復して移植しても妊娠に至らなかった方」に限られます。
 子宮内膜刺激胚移植法(SEET法)は、良好胚盤胞を凍結保存する際に同時にその胚を培養していた培養液の一部も凍結保存しておき、二段階胚移植の1個目の胚移植と同じタイミングでその培養液をまず子宮内腔へ注入し(約20μlと極めてわずかな量です)、二段階胚移植の2個目の胚盤胞移植と同じタイミングで融解胚盤胞移植を1個行うもので、多胎のリスクを回避しつつ二段階胚移植と同様の着床の促進を期待するものです。


9.体外受精の可能な回数・年齢・限界

 基本的に回数に制限はありません。年齢に関係なく良質な卵が発育する限り可能です。ちなみに、私達が体外受精を行い妊娠・出産までされた方の採卵時の最高年齢は46歳です。採卵回数では最高12回で妊娠・分娩された方がおられます。
 しかし新鮮胚移植不成功にてその後採卵を3回以上続けてもまったく胚盤胞に発達せず凍結保存できない場合や、胚移植を計5回行っても臨床的妊娠に至らない場合には挙児の可能性が極めて低くなるため、治療の継続につきまして相談をさせていただいております。


10.助成金について

 体外受精および顕微授精は、特定不妊治療として自治体から治療費の助成が行われます。この制度は、治療費に要する費用の一部を助成することにより、不妊に悩むご夫婦の経済的負担の軽減を図るものです。

 新百合ヶ丘総合病院は「不妊に悩む方への特定治療支援事業」の指定医療機関に指定されています。申請方法や必要書類につきましては、お住まいの各自治体へお問い合わせ下さい。
 参考:川崎市役所ホームページ(http://www.city.kawasaki.jp/259/page/0000035420.html