胚培養士コラム
「「良好胚」でも妊娠しないことがあるのはなぜ?」胚培養士 神野 亜耶
掲載日:2026-8-25

体外受精では、受精卵(胚)の見た目の状態(形態評価)や、必要に応じて行う染色体検査(PGT-A)などの結果を参考にしながら、より育ちやすい胚を選んでいきます。ただ、「見た目がとても綺麗」「検査結果が正常」と判定された胚であっても、残念ながら必ず妊娠につながるわけではないのが、体外受精のむずかしいところでもあります。
良好胚=見た目が良い胚
胚盤胞では、胚盤胞の膨らみ具合や、将来赤ちゃんになる部分(ICM)、将来胎盤になる部分(TE)の発育状態を観察し、「4AA」などのグレードが付けられます。形態評価が高い胚を「良好胚」と呼びますが、あくまで見た目による評価です。
一方、PGT-Aは胚の染色体の数を調べる検査です。形態評価とは異なる情報を調べるため、次のような胚も存在します。
- 良好胚でも染色体異常をもつ胚
- 形態評価が高くなくても染色体が正常な胚
まだ見えない「胚の力」
良好胚なら絶対に妊娠するの?
実は、見た目(形態評価)だけでは分からない部分もあるんです。
もちろん、形態評価や染色体のチェックは大きな目安になりますが、それだけで胚のすべてがわかるわけではありません。
2025年の研究では、染色体が正常で形態評価が同じ胚であっても、その胚が得られた採卵周期全体の胚盤胞到達率によって、着床率が異なる可能性が報告されました。例えば、10個の受精卵のうち8個が胚盤胞まで発育した周期と、1個しか胚盤胞にならなかった周期を比べると、同じ評価の胚でも、前者から得られた胚の方が着床しやすい傾向がみられました。別の研究では、5日目に胚盤胞へ発育した胚と6日目に発育した胚では、形態評価が同程度であっても、発育に関わる遺伝子の働きに違いがみられることが報告されています。
つまり、これらの研究は、現在の評価方法では捉えられない胚の力が、妊娠に関わっている可能性を示しています。
妊娠は胚だけで決まるわけではない
胚の見た目や染色体、発育スピードは、妊娠しやすい胚を選ぶための重要な指標ですが、現在の医療でも十分に解明されていない部分があります。妊娠は、胚そのものの力に加えて、子宮内膜の状態やホルモンのバランスなど、さまざまな要素が重なり合って成立します。だからこそ、たとえ良好胚で良い結果につながらなかったとしても、決してそれだけで諦める必要はありません。まだ見つかっていない選択肢やアプローチが残されている可能性は十分にあります。
【参考文献】
・Huang D, et al. Fertility and Sterility. 2025.
・Lee JH, et al. Human Reproduction. 2026.