当院で行っていない技術|リプロダクションセンター

以下は、当院では行っておりません。

  1. IVM(in vitro maturation:未成熟卵子体外培養)
  2. IMSI(intracytoplasmic morphologically selected sperm injection)
  3. Piezo-ICSI
  4. TESE(testicular sperm extraction:精巣内精子抽出法)
  5. Time-lapse胚培養(タイムラプス)
  6. 1ステップ培養

IVM(in vitro maturation:未成熟卵子体外培養)

IVMとは、未熟の卵を体外で成熟させる技術の事を言います。本来は採卵時に未熟であった卵子は染色体異常率が高いと言われていますが、IVMで用いられる卵子はあえてGV期卵を目指して採卵されます。こうして得られた未成熟卵子を体外培養し、体外受精を行います。

当院で採用しない理由

  1. IVMは非常に特殊な技術であるため、そこには相応のノウハウが必要になります。当院ではIVMに関して十分な知識と技術を有していません。
  2. IVMは著しく自然の卵子成熟から逸脱しており、安全性も十分に確立された技術ではありません。
以上、2点の理由から当院ではIVMの採用を見送っています。

IMSI(intracytoplasmic morphologically selected sperm injection)

600倍以上の高倍率で精子頭部の形態を詳しく観察し、形態良好な精子を選んでICSIする方法です。一般には妊娠率が高くなり流産率が低くなる効果が期待されています。

当院で採用しない理由

  1. IMSIの論文が発表されてから現在までの間に、IMSIの効果を否定する論文が多く出されており、現行法のIMSIでは効果がないとする意見が一般的です。
  2. 良好な精子は『運動性に優れ、形態が正常であるもの』と定義されます。IMSIでは高倍率で観察するため視野が狭くなり、結果的に運動性に乏しい精子を中心に観察する事となり、本来の良好な精子を選別する事から逸脱します。
  3. 最新の微分干渉顕微鏡は非常に解像度が高く、従来の物と比較し精子の観察が鮮明で、従来では見落としていたような非常に微細な精子奇形も観察可能です。当院で採用しているIX71は最新の顕微鏡で、高解像度の微分干渉観察が可能です。
以上、3点の理由から当院ではIMSIの採用を見送っています。

Piezo-ICSI

ICSI(顕微授精)の際に、ICSI用ピペット(卵子に精子を注入する針)を急速で微細に振動させることで、容易に精子を注入する方法です。通常のICSIと比較して非常に侵襲が少なくなく、ICSIではすぐに崩壊してしまうような膜の弱い卵子にも有効で、卵子に与えるダメージを軽減させる事でICSI後の変性率が下がると言われています。

当院で採用しない理由

  1. Piezo-ICSIには特別な装置が必要です。高額な装置であるため、容易に導入する事が出来ません。
  2. 良好な精子は『運動性に優れ、形態が正常であるもの』と定義されます。IMSIでは高倍率で観察するため視野が狭くなり、結果的に運動性に乏しい精子を中心に観察する事となり、本来の良好な精子を選別する事から逸脱します。
  3. 変性率が低下することはほぼ間違いないと考えられますが、その他の成績(良好胚の割合、妊娠率、流産率、生児出産率など)は向上しないという発表が多いようです。
以上、3点の理由から当院では現在、Piezo-ICSIの採用を見送っていますが、成績に差はなくとも侵襲性が少ないという点は非常に魅力的で、今後採用を検討している技術の1つでもあります。

TESE(testicular sperm extraction:精巣内精子抽出法)

主に無精子症(無精子症:射精した精液の中に精子が1匹もいない症状)に対し、精巣から直接精子を回収する方法です。泌尿器科での手術が必要です。

当院で採用しない理由

非常に高度な手術が必要となるため、泌尿器科との綿密な連携が必要となります。今後当院でもTESEを採用すべく、現在準備中です。

Time-lapse胚培養(以下 タイムラプス)

通常の胚の観察は、1日に1回培養器から胚を取り出して胚の形態をチェックし、発育状況などを把握します。培養器から取り出している時間、胚は外的ストレスに曝される為、胚の観察などの培養器外操作は短時間に済ませなければなりません。

このタイムラプスという機械は、胚を培養器内から取り出すことなく、培養しながら一定間隔で胚の観察および撮影ができる培養装置です。受精から胚移植あるいは胚凍結まで培養器から胚を取り出す必要がなく、安定した環境を保ちながら胚の発育状況を連続して観察することができます。

また、従来の胚の観察とは異なり、1日1回(数秒)の定点観察ではなく、動画のように胚の発育が把握出来るため、異常な発育を見逃しません。

当院で採用しない理由

  1. タイムラプスのアルゴリズムは確立されておらず、その効果を否定する論文も多く出されています。現状では臨床で使用するよりも研究としての価値が高い培養技術であると言えます。
  2. タイムラプスは1台が数千万円もする非常に高額な機械です。また、専用の消耗品やメンテナンスの代金は非常に高額なものとなり、多くの施設では培養料金に上乗せをして患者さんから徴収しています。当院では、本当にその効果が有効であると確認できない場合、患者さんが支払うコストを上げるべきではないと考えています。
以上、2点の理由から当院ではタイムラプスの採用を見送っています。

1ステップ培養

胚は卵管で受精&発育し、子宮に降りてきて着床します。卵管と子宮の中に含まれる液には、胚が発育するために大切な栄養素が含まれています。これらの栄養素の分泌は、胚の発育に合わせて大きく変化します。従来使用されていた培養液(Sequential Medium)は、この子宮や卵管で分泌される栄養素の変化にならって、胚の発育段階に分けた3種類の培養液を準備し、胚の発育に応じて培養液を交換していくシステムでした。

近年注目されている1ステップ培養とは、受精から胚盤胞形成まで1種類の培養液(Single step medium)で培養することです。この培養液には胚発育の各段階で必要となる栄養素がすべて含まれており、胚が自ら栄養を選択する力を利用しています。

そのため、発生の途中で培養液を交換する必要がなく、培養液交換に伴う胚ストレスの軽減が期待できます。また、培養液準備&培養液交換という手間が省けるため、マンパワーが向上します。

当院で採用しない理由

  1. 1ステップ培養液では、胚の発育段階によっては必要のない栄養素も含まれることになり、それらは胚の発育を阻害するという報告もあります。
  2. 近年いくつかの論文で、培養液の組成の違いによって、遺伝子の発現が変化する事が指摘されており、従来とは大きく異なる組成の1ステップ培養液を用いることは安全性の確保が十分でなく、当院ではこれらの培養液の採用は時期尚早であると考えています。
  3. 従来通りの培養法と1ステップ培養法では、培養成績&臨床成績に差は認められないとする論文が殆どです。
以上、3点の理由から当院では1ステップ培養の採用を見送っています。