当院で行っている技術|リプロダクションセンター

以下は、当院で考案された独自の方法です。

  1. 紡錘体可視化ICSI(ICSI=顕微授精)
  2. Caイオノフォア法(人為的卵活性化法)
  3. 移植用培養液の使用
  4. 2段階胚移植
  5. 子宮内膜刺激下胚移植法(SEET法)

紡錘体可視化ICSI(ICSI=顕微授精)

紡錘体は卵子の中にあって、細胞が分裂する時に必要なものです。核のすぐ傍にあるため、紡錘体が見えると、核の位置が分かります。また、紡錘体が見えるということは、その卵子が成熟していることを意味します。紡錘体を観察する事ができる特殊な顕微鏡を用いて顕微授精を行えば、受精するために最高のタイミングで、さらに核を傷つけない安全な位置に、顕微授精をすることができます。Spindle ICSIによって受精した胚は、その後の発生や胚の質に影響するとの報告もあります(Wang Q et al 2006, Lasiene K et al 2009)。

採用した理由

実際には紡錘体可視化 ICSIについて、効果がないという論文も多く出されていることも事実で、紡錘体可視化 ICSIを導入したからと言って必ずしも成績が向上するわけではありません。しかし、紡錘体可視化 ICSIの持つ2つの特徴『本来起こり得る最良のタイミングで受精が出来る』『核を絶対に傷付ける事無く顕微授精が出来る』は、当培養室が目指す【安心で安全な受精と妊娠】に近付く事が出来ると考え採用しています。

また、紡錘体が複数個見えた場合には、染色体異常が懸念されるため顕微授精&培養を中止しています。このように、卵子に内在する核や染色体の異常の一部を排除する事もできます。

Caイオノフォア法(人為的卵活性化法)

卵子に侵入した精子の卵活性化物質が卵子内に拡散し、卵細胞内のCaイオン濃度が上昇する事で受精が始まります。しかし、卵活性化物質を持っていない精子の場合、卵子に侵入しても受精は起こらず、たとえ顕微授精を施行したとしても受精が起こらないことがあります。

Caイオノフォアとは、強制的に卵細胞内のCaイオン濃度を上昇させる働きがある薬剤の事で、このような受精障害の症例に対し、Caイオノフォアを用いて強制的に卵子のCaイオンを上昇させる事で人為的に受精を起こさせる事をCaイオノフォア法と言います。

採用した理由

極稀に顕微授精を施行しても全く受精しない症例に遭遇します。そのような場合、卵子を人為的に刺激する以外の方法はありません。Caイオノフォア以外にも電気刺激法、アルコール刺激法やタンパク合成阻害剤を用いる方法などがありますが、現状ではCaイオノフォア法が世界的に最も多く施行されており、その作用機序を考えても、他の活性化法に比べて最も安全といえると当院では考え、Caイオノフォア卵子活性化法を採用しています。

移植用培養液の使用

子宮の中にはヒアルロン酸が存在していて、子宮内膜と胚の接着(着床)に関与すると言われています。高濃度のヒアルロン酸を含んだ培養液は、着床を促進する効果があるとされ、胚移植反復不成功患者に有効であると言われていて、培養液を販売する各社から様々な移植用培養液が発売されています。

採用した理由

移植用培養液を使用した胚移植については、現段階では効果が認められていません。しかし、ヒアルロン酸は生体内でも存在する生理的物質であり、比較的安全性は高いと考えられます。

そこで当院では移植用培養液の使用を、良好な胚を移植しても妊娠に導けなかった患者さんに対し、1つの新たな選択肢として用意しており、患者さんの希望があった時に施行しています。当院では、移植用培養液としての実績が最も多く、且つ商品が米国FDAの認可を取得している『Embryo Glue』を移植用培養液として採用しています。

2段階胚移植

胚が卵管から子宮に到達すると、胚は子宮に対しサイトカインと言う物質を分泌し、自分が子宮内にいる事を知らせると言われています。子宮はそのサイトカインを関知して胚の存在を知り、着床に向けて準備をします。

2段階胚移植とは、受精後3日目の初期胚をまず1個移植し、その2日後(受精後5日目)に胚盤胞を1個移植する方法です。はじめに移植された胚が子宮に自分の存在を知らせ、それを子宮が関知する事で着床しやすい環境をつくります。その状態で胚盤胞を移植することにより、2段階目に移植した胚の着床率が高まることが期待出来ると言われています。

当院の考え

2段階胚移植については、現段階では効果が認められていません。また、合計2個の胚を移植する事になるため、この方法は多胎のリスクが上がる事が指摘されています。

当院では、2段階移植法を良好な胚を移植しても妊娠に導けなかった患者さんに対し、1つの新たな選択肢として用意しており、患者さんの希望があった時に施行しています。

子宮内膜刺激下胚移植法(Stimulation of endometrium-embryo transfer: 以下「SEET法」)

胚を培養していた培養液には、培養していた胚から分泌される、着床に関わるサイトカインが存在すると言われています。SEET法は2段階胚移植と同様の理論を用いて、胚盤胞を培養していた培養液を、胚盤胞移植をする2日前に子宮腔内へ注入する方法です。2段階胚移植と同様の効果が得られながら、移植する胚は1個のため多胎のリスクを低減出来る事が期待されています。

当院の考え

2段階胚移植と同様に、SEET法についても現段階ではその効果が認められていません。ただし、原則としては1胚移植となるため、多胎のリスクは少なくなります。

当院では、SEET法を良好な胚を移植しても妊娠に導けなかった患者さんに対し、1つの新たな選択肢として用意しており、患者さんの希望があった時に施行しています。