抄読会コラム

「PGT-Aの効果(1~2個の胚盤胞しか得られない患者さんの場合)」|リプロダクションセンター

産婦人科/リプロダクションセンター 部長 田島博人

掲載日:2025年4月25日

PGT-Aに関する最近の論文を一つご紹介したいと思います。結論から申し上げますとこれまでの報告とは大きく変わらないのですが、PGT-Aの位置づけについてご理解を深めて頂ければと思い、今回取り上げてみました。

Cimadomo D et al. Value of PGT-A when only one or two blastocysts are obtained: propensity-score matching and cost-effectiveness study. Ultrasound Obstet Gynecol. 2025 Jan;65(1):106-113.

背景

PGT-Aについては賛否両論があります。しかし胚移植あたりの妊娠率向上や流産率の低下はよく言われることであり、出生までの時間短縮や治療費削減の期待があります。特に高生殖年齢の方や多くの受精卵が得られる方でより有効とされています。本研究では、1~2個の胚盤胞しか得られない際のPGT-Aの効果を検証しました。

方法

1829名の症例データから、1~2個胚盤胞が得られたPGT-A群1461サイクルおよび非PGT-A群368サイクルを抽出し、傾向スコアマッチングを行い各群242名ずつのデータセットを作成、PGT-A群と非PGT-A群について以下を比較しました。

  1. 胚移植(ET)あたりの出産率(LBR)
  2. 患者あたりの累積LBR
  3. 臨床妊娠あたりの流産率(MR)
  4. 採卵からIVFサイクル終了までの日数
  5. 増分費用対効果比

結果

  1. 移植回数はPGT-A群では164回、非PGT-A群では359回。
  2. 2回胚移植を受けたのはPGT-A群8.7%、非PGT-A群48.3%
  3. 母体年齢上昇に伴い、胚あたりの染色体正常率は低下、移植を受けられなかった割合が増加(40歳以上では1つの胚盤胞を得た女性の89%、2つの胚盤胞を得た女性の58%が移植を受けずに終了)
  4. PGT-A群において、患者1人あたりの胚あたりの染色体正常率は中央値50%。99人は染色体正常胚盤胞が得られなかったため移植を受けられず。
  5. 胚移植あたりの生児出産率(LBR):PGT-A群41.5%、非PGT-A群16.2%(有意差あり)
  6. 流産率(MR):PGT-A群13.9%、非PGT-A群30.1%(有意差あり)
  7. 累積生児獲得率(LBR):PGT-A群で27.3%、非PGT-A群で23.6%(有意差なし)
  8. IVFサイクル終了までの期間:PGT-A群平均74日、非PGT-A群平均131日(有意差あり)
  9. 費用対効果:35歳以上の女性や胚盤胞が2個得られた方、35歳以上かつ2個の胚盤胞を得た方でPGT-A群の方が治療費を抑えられていました。しかし35歳未満で胚盤胞が1つしか得られない場合はPGT-A群の方が高額になっていました。

考察

本研究では、PGT-Aによる胚移植あたりの妊娠率上昇や流産率の減少が示されましたが、患者あたりの累積生児獲得率(LBR)は非PGT-A群と同等で、これは過去の研究と同様の結果でした。しかし無駄な胚移植と流産が減る事には大きな意味があり、これらの結果をよく理解した上で上手く活用する事が重要だと思います。