ドクターコラム
「人為的卵子活性化処理」|リプロダクションセンター産婦人科 髙木 駿
掲載日:2025年3月5日
体外受精の流れ
体外受精においては採卵という受精卵を獲得するステップと、移植という受精卵を子宮に戻すステップの大きく2段階に分かれます。なので、最初の受精卵獲得ができなければ移植のステップに進むこともできません。
採卵周期における人為的卵子活性化処理とは
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採卵によって得られるものは卵子になります。この卵子と精子が受精し合体することで受精卵という赤ちゃんに育っていくものが発生します。この受精には卵子の活性化が必要と言われています。顕微授精という、卵子に精子を直接注入する受精方法でも1~3%でこの受精がうまくいかない、受精障害が起こると言われています。受精障害を克服する方法として人為的卵子活性化(Artificial Oocyte Activation:AOA)と言う方法があります。
当院において行われているAOAは2種類でCaイオノフォアおよび塩化ストロンチウム(SrCl2)によるものです。
AOAを行う対象
全例でこのAOAが行われるわけではありません。まず顕微授精であることが前提となるので、繰り返し採卵するも良好胚盤胞がえられない場合に適応となります。最初は基本的に振りかけ(IVF)による受精を目指すので、初回から行われることはありません。
CaとSrCl2の違い
海外の文献を紹介します。
卵子に活性化不全の原因があると考えられる場合:SrCl2がより有効である可能性がある。
精子に活性化不全の原因があると考えられる場合:Caイオノフォアがより有効である可能性がある。
と言う論文もあれば、
CaイオノフォアはSrCl2よりも卵母細胞の活性化率が高い。
SrCl2ではより質の良い胚が得られる傾向がある。
妊娠率は、両群に有意差はなかった。
と述べている論文もあり、エビデンスの蓄積が待たれます。
当院において
Caイオノフォアで良好胚盤胞を得られなければSrCl2に移行することが多いです。その順番で行っているので純粋に良好胚盤胞到達率を比較することは困難ですがが、Caイオノフォアで良好胚盤胞を得られずとも、SrCl2で良好胚盤胞を得られた患者様、妊娠に至った患者様もいらっしゃいます。
過去のデータを個人的に全て振り返ったところ、移植回数が10回を超えていても(保険適応になる前の時代からのデータも入っております)、Caイオノフォア、SrCl2も使って得た受精卵を用いて妊娠し生児獲得に至った患者様もいらっしゃいました。
これらのデータからも、諦めずにあらゆる試行錯誤、トライアンドエラーを繰り返すことが結果につながることも多いと実感しております。卵子活性化処理だけでなく、様々な角度から患者様にお力添えしていければと思います。
卵子というものは、残念ながら増えることはなく、減る一方なのです。このことからわかるように、AMHという値は、年齢が上がるにつれて、基本的には減少していく値です。そのためか、AMHは、「卵巣年齢」と表現されることも時々目にします。ただ、「卵巣年齢」という表現は、少し語弊があるなと感じます。
【参考文献】
Fawzy M,et al.Human Reproduction.2018
Norozi-Hafshejani,et al.Iranian Journal of Basic Medical Sciences,2018
Caイオノフォアとストロンチウムによる人為的卵子活性化処理の体外受精成績の比較,髙木駿,生殖医学会,2024