ドクターコラム
「猫とトキソプラズマ感染のお話」|リプロダクションセンター掲載日:2025年5月27日
こんにちは。産婦人科医師の山口と申します。私は猫が大好きで、現在も猫と暮らしています。写真の猫は我が家の猫、くまとらちゃんです。一応メスです。毎日猫と触れ合う時間は本当に癒しで幸せです。
一方で、「妊娠中に猫と触れ合うことは危険」と、どこかで聞いたことのある方は多いのではないでしょうか?妊娠を希望している方の中には、猫と今まで通り触れ合っても平気?など疑問を持ったことがある方もいるかもしれません。
妊娠中に猫が危険と言われている理由は、トキソプラズマという感染症によります。妊娠中の初感染は先天性トキソプラズマ症の発症につながり、日本での発生率は10000出生あたり1.26人とされています。
トキソプラズマは原虫という種類の病原体であり、ほぼ全ての哺乳類・鳥類に感染する可能性がありますが、ネコ科動物以外では筋肉や神経の中でしか存在できず、加熱により感染力を失うため、生肉を食すことでしか感染経路になりません。妊娠中に生肉を食べてはいけない理由はこれによります。
ネコ科動物でのみ、感染力のある安定した形態(オーシストと呼びます)で糞便に排出され、それを経口摂取することで感染が起こります。近年では、水や土壌など、猫の糞便が含まれる可能性のある環境からの感染事例も報告されています。このオーシストは消毒液では死滅させることができません。しかし感染したネコがオーシストを排出するのは、初感染から2週間のみの期間であり、糞便に排出されたオーシストが感染力を得るまでは24時間を要すると言われています。
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以上より、猫を飼っている方は、飼い猫をトキソプラズマに初感染させないこと(できるだけ室内飼いにし餌はキャットフードを与える)、猫をキッチン・食卓に近づけないこと、猫の糞便に触れるお世話は妊婦以外が行いトイレの砂は毎日交換することが、感染予防になります。妊娠中に新しい猫を飼うことも避けた方が良いでしょう。その他、生肉は食べない、野菜や果物はよく洗うか皮を剥いて食べる、土を触った後は石鹸と温水で手洗いするなども感染予防には重要です。
猫含め動物には、癒し効果がとてもありますよね。猫のゴロゴロ音には不安やストレスを軽減する効果があると言われています。
ぜひ正しい知識を持って、妊活中・妊娠中も猫との暮らしを楽しんでください!
産婦人科診療ガイドライン産科編2023
国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト