胚培養士コラム

「PGT-Aの適応とメリット・デメリット」|リプロダクションセンター

胚培養士 秋元 諭

掲載日:2025年6月14日

当院では、より高い妊娠率と安全性を目指して、着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)をご提案しています。今回は「PGT-Aの適応」と「メリット・デメリット」について、実際のデータと共に解説いたします。
前回のコラム「PGT-Aとは?」はこちらから

PGT-Aの適応

PGT-Aはすべての患者様に一律に行う検査ではありません。以下のようなケースで、医師とのカウンセリングを通じて実施が検討されます。

  1. 反復着床不全(複数回の胚移植を行っても着床に至らない場合)
  2. 反復流産(妊娠はするが流産が繰り返される場合)
  3. その他、医師との十分な相談により適応と判断された場合

PGT-PGT-Aの実施は、患者様の年齢や治療歴、受精卵の状態などを総合的に判断し、最善の選択肢として提案されるものです。

PGT-Aのメリット

①妊娠率の向上とリスクの低減

染色体数に異常のない胚(正倍数性胚)を選んで移植することで、移植あたりの妊娠率の向上が期待されます。日本産科婦人科学会のデータ(Iwasa et al., 2023)では、PGT-A後の移植あたりの妊娠率は68.8%と高く、母体の年齢が上がっても比較的安定した成績が保たれていると報告されています。PGT-Aによる妊娠では、染色体異常に起因するリスクや周産期合併症のリスクが軽減される可能性も示唆されています(Zheng et al., 2021; Hung et al., 2024)。

②流産率の低下

染色体異常のある胚を移植対象から除外できるため、流産率の低下が期待されます。2025年に発表された多施設共同研究では、PGT-Aを実施したことで流産率が35〜37歳では6.0%、38〜40歳では12.6%低下したと報告されました。日本国内のデータでも、PGT-A後の妊娠における流産率は10.4%と低く、年齢による変動も比較的小さいとされています。

③治療期間の短縮

PGT-Aにより染色体異常のない胚のみを選んで移植することで、妊娠に至らない胚移植を回避できます。その結果、移植回数の削減や治療期間の短縮が可能となり、患者様の身体的・心理的な負担軽減にもつながります。

PGT-Aのデメリット

①100%の診断ではない

PGT-Aは染色体の数的異常を検出する検査ですが、すべての染色体異常を完全に把握できるわけではありません。ごくまれに、正常と判定された胚盤胞に異常があったり、異常とされた胚に正常な構造が含まれている可能性もあります。

②胚への影響

検査のために胚から細胞を採取する必要があるため、微細ながら不可逆的な変化を生じる可能性があり、技術的な熟練と慎重な判断が求められます。

③追加費用

PGT-Aは現在のところ保険適用外であるため、検査にかかる費用は自費負担となります。

④倫理的・心理的な負担

検査結果によっては、移植可能な胚が存在しないこともあり、患者様にとって心理的な負担が大きくなるケースもあります。

最後に

PGT-PGT-Aは非常に有用な技術である一方で、万能ではなく、すべての患者様に適しているわけではありません。患者様の治療歴や価値観、ご希望に応じて、医師や胚培養士と相談しながら最適な選択肢を見つけていくことが大切です。

PGT-Aをご検討の際は、ご自身の背景やご希望にあわせて、医療スタッフと十分にご相談ください。私たちはその判断を全力でサポートいたします。

次回は「当院のPGT-A実施件数と成績」についてご紹介いたします。ぜひご覧ください。

【参考文献】Zheng et al., 2021; Hung et al., 2024

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