胚培養士コラム
「「精子の数で寿命が決まる?」――ちょっと気になる研究のお話」胚培養士 秋元 諭
掲載日:2026年1月20日
「精子の状態が、将来の寿命と関係しているかもしれない」
そんな話を聞くと、「えっ、それって大丈夫なの?」と、少し不安になりますよね。
実際、2025年に発表されたヨーロッパの大規模研究では、精子の状態と男性の寿命に関連があるという結果が報告されました。
ただし、最初に大切なことをお伝えします。この研究は、患者さんを怖がらせるためのものではありません。
どんな研究だったの?
この研究では、デンマークで精液検査を受けた約7万8千人の男性を、最大50年間という非常に長い期間追跡しました。
そして、
• 精子の数
• 運動率
• 全体としての精子の状態
といった指標と、その後の**寿命(すべての原因による死亡)**を比較しました。
何が分かったの?
結果をとても簡単に言うと、精子の状態が良好な男性ほど、平均して長生きする傾向があったというものです。
たとえば、運動する精子が多いグループと、非常に少ないグループを比べると、平均寿命に数年の差が見られました。
「精子が悪い=早死に」ではありません
ここが一番大事なポイントです。この研究は、「精子の状態が悪いと寿命が短くなる」と断定しているわけではありません。
研究者たちは、
• 学歴(社会的背景)
• 精液検査より前の病気の有無
といった要素も考慮した上で解析しています。
それでも関連が残ったため、精子の状態は、男性の体全体の健康状態を映す“ひとつのサイン”かもしれないと考えられています。
つまり、精子の状態そのものが寿命を決めているのではなく、体のコンディションが精子にも表れている可能性がある、という見方です。
不妊治療を受けている方は心配する必要は?
この研究の対象は、「将来どうなるか」を統計的に見たものです。
すなわち、「現在治療を受けていること」「精子の数が少ないこと」それ自体が、「将来必ず健康に問題が出る」という意味ではありません。
実際、多くの男性は精液検査時点では若く、明らかな病気もありませんでした。
この研究が本当に伝えたいこと
論文の結論では、次のように述べられています。
精液所見は、将来の健康状態や寿命を考える上でのひとつの指標(バイオマーカー)になり得る可能性がある
そして、今後は、精液検査をきっかけに男性の健康をより早く見守る予防医学につなげられるかもしれない
とまとめられています。
最後に
精液検査は、「妊娠できるかどうか」だけを見る検査ではありません。もしかすると将来、**男性の健康を守る“入り口”**としてより大きな役割を持つようになるかもしれません。
今回の研究は、そんな新しい可能性を示した、とても大切な一歩だと考えられます。
【出典】
Priskorn L, Lindahl-Jacobsen R, Jensen TK, et al.
Semen quality and lifespan: a study of 78,284 men followed for up to 50 years.
Human Reproduction. 2025;40(4):730–738.
doi:10.1093/humrep/deaf023
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