顕微授精について|体外受精とは

顕微授精とは

通常精子は卵子の透明帯(殻)を自力で通過して卵細胞に到達し、受精が成立します。しかし体外受精をしても、精子の数が少ない人や運動率の悪い人は受精をしない場合が多く、また精液検査では正常でも受精しないことがまれにあります。更に、卵側の質の問題で精子が良くても受精しにくいという場合もあります(原因不明受精障害)。

そこで顕微鏡と特別な装置を使用して卵細胞質内精子注入法(intracytoplasmic sperm injection: ICSI 「イクシー」と呼びます)で受精を試みます。これはマイクロマニピュレータという機械を使って、極めて細いガラス管に精子を一匹だけ吸引し、これを直接卵細胞質に刺し入れ受精させる方法です。

通常の体外受精でほとんど受精しなかった患者さんにこの方法を用いた場合、平均で約50%の受精率が得られ、9割以上の方に受精卵が確保できることが期待できます。また無精子症と診断された人でも精巣(睾丸)から精子を見つけられればこの方法で妊娠が可能です。

このようにICSI法は1992年に発表されて以来急速に普及が進み男性不妊症のほとんどが解決され、現在本邦では通常の体外受精とほぼ同数の治療が行われております。

  • 顕微授精とは
  • なお媒精を行う通常の体外受精を予定していても、採卵当日に精子の状態が良くない場合に急遽、顕微授精に切り替える場合があります。そのため別途記載して頂く体外受精同意書では、その場合に顕微授精を希望されるかどうかの意思を、事前に確認しております。

顕微授精は上図のように成熟卵子の第一極体を12 時または6時の方向にあわせて固定し、3時の方向から精子を注入します。その理由は、核分裂に重要な紡錘体が第一極体の近くに存在しており、この紡錘体を傷つけずに精子を注入するためです。しかし紡錘体は第一極体から離れた位置に存在することがあり、そのような卵子に通常の位置から顕微授精を行うと紡錘体を傷つけてしまう恐れがあります。

そこで当院では、特殊なフィルターとレンズを用いることで紡錘体を下図のように可視化して、その位置を確認しながら顕微授精を行い安全性を高めています。

第一極体から離れた紡錘体(スピンドル) 第一極体から離れた紡錘体(スピンドル)

また紡錘体の確認ができない場合は、卵子が未成熟である可能性があり、時間をおいて再度確認してから顕微授精を施行することで、受精率の向上を期待することもできます。これまで複数回顕微授精を行っても良い結果が得られていない場合でも、紡錘体の位置を意識して顕微授精を行うことで受精や胚発生が改善し、成功につながる可能性が高くなります。