胚の凍結保存と融解胚を用いた胚移植について|体外受精とは

胚の凍結保存と融解胚を用いた胚移植について

体外受精や顕微授精の治療において、排卵誘発・採卵を行った結果、良好な受精卵が数多く得られることがあります。この場合、胚移植後にも移植しない余剰胚が生じることとなり、これらを次回の治療のために凍結して保存しておくことができます。

凍結保存のメリット

  1. 1回の採卵で複数回の移植が可能となる
  2. 多胎妊娠を減らすことができる(日本産科婦人科学会としては移植胚数を原則1個、年齢や治療回数を考慮して2個までは許容するとしております。当院ではこれを遵守して治療にあたらせていただきます)
  3. より生理的なホルモン環境下や良い体調の時などに移植できる
  4. 卵巣過剰刺激症候群の発生が予想される時、次周期以降に胚移植を延期し、その悪化を予防できます(妊娠した場合更に悪化するため)

本邦においては受精卵の凍結・融解胚移植により、2018 年には 49,383 人の児が誕生しており、その有益性・安全性はほぼ確立されています。この方法は良好胚盤胞のみを凍結保存し、より生理的な環境で融解胚移植しますので、新鮮胚移植よりも高い妊娠率が得られます。

胚凍結の時期

凍結を行う受精卵の時期としては、前核期(受精翌日)、2~8細胞期(受精2~3日目)、桑実胚あるいは胚盤胞期(受精4~6日目)すべての時期で可能であり、余剰胚のグレードや数により凍結時期を決定しますが、胚盤胞期で凍結を行うことが多くなっています。

凍結方法

細胞を凍結すると、その中の水分は凝固して氷晶を形成し、約 10%体積が増加すると言われています。この水分の膨張が細胞膜や細胞内の微細構造を破壊してしまうため、それを防ぐ凍結法として、現在では vitrification 法(ガラス化法)という急速に冷却・凍結する方法が行われています。

  • 凍結方法""
  • 高濃度の凍結保護剤(高濃度のエチレングリコール、ショ糖、フィコール)を含む溶液中に胚を濃縮した後、液体窒素内へ入れ急速に温度を下げることで全てのものを一瞬にしてガラス化(非結晶化)状態にし、細胞の破壊を防ぎます。凍結した胚は液体窒素タンク(-196℃)内で保存します。

融解方法

移植が決まり融解する時は液体窒素内から常温へ急速に移して温度を上げ、胚の融解用に調整した培養液を用いて耐凍剤を除去し、回復培養を行います。

融解胚移植の方法

以下の2通りの方法で子宮のホルモン周期をあらかじめ合わせておいて、最適なタイミングで胚移植を行います。

自然周期による移植法

卵胞ホルモン値と超音波による卵胞径の測定を適宜行って卵胞成熟を確認し、自然排卵の指令が脳下垂体から出る前に HCG の注射またはブセレキュア点鼻をします。その後 36 時間で排卵が起こるため、その予想排卵時刻に、凍結した周期の採卵から凍結までの時間を加えた時刻が融解胚の移植時刻となります。ただし、融解胚は成長が開始するまで数時間を要すると言われており、移植の数時間前に解凍して回復培養を行います。そして良好な胚を移植します。

  この方法のメリットは自然排卵を利用するためホルモン補充が最小限で済むところにあります。しかし、きれいな自然排卵が確認できずホルモンが不安定となった場合や、排卵日が特定できなかった場合には胚移植がキャンセルとなったり、あらかじめ胚移植の日を決めておくことができない(自然排卵日は変動するため)といったデメリットがあります。

ホルモン補充周期での移植法

排卵障害や子宮内膜の発育障害がある時に用いられる方法で、GnRH製剤により自然排卵を抑え、卵胞ホルモンおよび黄体ホルモンを補充することにより、子宮内膜を十分厚くした上で胚を移植します。

自然周期で子宮内膜が薄い場合や、卵巣機能が悪くホルモン動態が不安定な方、自然排卵がしにくい方でもホルモンを極めて安定させて移植が可能となること、人工的に周期を作るため移植予定日をあらかじめ決めておくことが可能であることがメリットですが、自然排卵後に出来るホルモンを分泌する黄体がないため、胎盤からのホルモンが分泌されてくる妊娠9~10週までの長期間ホルモン補充を必要とすることがデメリットです。

凍結保存期間

凍結胚の保存期間は女性が生殖年齢を超えない限り(閉経まで)で最長5年間とします。ただし、1年ごとに保存の希望を確認し、保存期間の延長を希望される場合は、その意思をお知らせいただくとともに保存に関する費用をお支払いいただきます。当院から凍結期間終了のお知らせはお手紙にていたしますが、保存期間を3ヶ月以上過ぎて患者様からの連絡のない場合は、当院で丁重に廃棄処分させていただきます。

胚凍結日から1年後の同月同日以降の凍結保存には延長手続きが必要となりますので、延長をご希望の場合はそれまでに(遅くても保存期間を過ぎて3ヶ月以内に)ご来院下さい。

延長を毎年繰り返した場合でも最長保存期間は5年間とし、それを越えたものに関しては丁重に廃棄処分させていただきます。

凍結胚の廃棄について

以下の場合に該当するとき、凍結胚を廃棄いたします。
  1. ご夫婦のどちらか一方が死亡した場合
  2. ご夫婦のどちらか一方が廃棄を希望したとき
  3. 離婚された場合(別居など婚姻が事実上破綻した場合を含む)
  4. 女性が生殖年齢を過ぎた場合(閉経)
  5. その他生殖を不能にする事態(子宮の摘出手術など)
  6. 保存期間を3ヶ月以上過ぎてご連絡がなかった場合
  7. 胚凍結日より5年間が過ぎたとき
なお、これらの事態が生じた場合には速やかに当院まで御連絡下さい。

凍結・保存・融解に伴う胚のダメージ

凍結融解後の胚の生存率は9割以上と非常に高いものですが、凍結・保存・融解の操作の過程で胚が破損したり、変性したり、失われてしまうことがあります。極めてまれですが保存容器の損傷や天災(地震・火災・戦乱)などで胚が死滅することがありうることをご承知下さい。また、万一当院が閉院する事態が生じた場合には、可能な限り凍結胚を他施設への移送する手続きを取ります。