体外受精のながれ|体外受精とは

体外受精の方法

1.治療前の準備

体外受精を実施する月までは通常の治療を続けて頂いて結構ですが、直前の周期まで強い卵巣刺激を続けていると、体外受精の周期に卵胞の発育が不十分になることがありますので、体外受精の前の少なくとも3ヶ月間は卵巣を休ませておくのが良いと考えられます。

前周期はピルで卵巣を休ませたり、前周期高温期から後述のブセレキュアや少量のピルを服用していただいたりすることがあります。

2.卵巣刺激(排卵誘発)

体外受精を成功に導くには、できるだけ良質の成熟卵を採取する必要があります。排卵してくる卵は、そのすべてが赤ちゃんになれる良質なものではないため、自然で発育してくるたった1個の卵を採取するのでは非効率です。そこで排卵誘発剤(FSH/HMG製剤、クロミッド)を使用して卵巣を刺激し、多くの卵を発育させます。しかしそうすると通常より早く、卵が未熟なうちに排卵してきてしまう傾向になるため、自然排卵が起こらないようにする必要があります。

卵巣刺激

排卵誘発剤の種類

FSH/HMG製剤

強力な下垂体卵巣刺激ホルモン注射剤。連日または隔日で筋肉注射します。精製方法の違いによって、2種類の下垂体ホルモン(FSHとLH)の配合比が異なりますので、その特性を利用して様々に組合わせて使用します。LHとFSHが1:3の比で含まれる注射薬(HMGフジ)、LHとFSHが1:1の比で含まれる注射薬(HMGテイゾー)、LH混合をとても低く抑えた精製FSH製剤(ゴナピュール)、遺伝子組み換え自己注射FSH製剤(ゴナールF)などを使用します。

クロミッド

弱めの経口排卵誘発薬。タイミング法や人工授精法では月経5日目から5日間の服用としていますが、体外受精の卵巣刺激では多くの場合、月経3日目から1日1錠で内服を開始し、卵が成熟しきるまで指示があるまでずっと長期間使用します。これは卵巣を刺激する効果に加えて、自然排卵が起こらないようにする作用があるためです。子宮内膜が薄くなって着床しにくくなったり、頭痛、かすみ目などの副作用が出ることがあります。

卵巣刺激によって多数の卵を採取した方が当然治療成績は高くなります。当院では卵巣機能が保たれている方にはまず、ロング法/アンタゴニスト法を選択しておりますが、強く刺激しても多くの卵が採取できないと予測される方(年齢が高い方、卵巣の手術既往がある方など)には、あえて弱めの誘発法(クロミッド/クロミッド-HMG法など)を用いたり、自然周期での採卵をすることもあります。

卵巣刺激法

強力に誘発せざるを得ない患者さんにはショート法/ウルトラショート法を用いることもあります。つまり患者さん一人一人に適切な誘発法を選択する必要があり、AMH(抗ミュラー管ホルモン)採血の値をひとつの選択基準として使用しております。主な卵巣刺激法には以下の方法があります。

体外受精のスケジュール
ロング法

ブセレキュアという点鼻薬を長期間使用して自然排卵を防ぎます。体外受精を実施する前周期の高温期7日目頃より開始して月経が来た後も卵が成熟しきるまで使用し続けます。FSH/HMG製剤は月経3日目頃より投与開始します。

ショート法

ブセレキュアは投与初期に卵巣刺激ホルモンを上昇させる作用があるためそれを利用してロング法より更に強い刺激をすると同時に自然排卵も抑える方法です。ブセレキュアを月経1~2日目から開始して卵が成熟しきるまで使用し続けます。FSH/HMG製剤は3日目から投与開始します。

アンタゴニスト法

ブセレキュアに替わり、作用機序の異なるセトロタイドという注射で自然排卵を抑えます。月経3日目からFSH/HMG製剤を投与開始し、卵胞径が14mmに達した日からセトロタイドも卵が成熟しきるまで連日注射します(通常3~4日間)。クロミッドを併用することがあります。

クロミッド-HMG法

月経3日目からクロミッドを1日1錠卵が成熟しきるまで毎日服用します。月経5日目から隔日でFSH/HMG製剤を投与します。誘発の最後の方だけセトロタイドを使用することがあります。

ブセレキュア

GnRHアゴニスト製剤といい本来子宮内膜症や子宮筋腫などの治療に用いられる薬ですが、その作用は長期間使用することで脳下垂体の卵巣刺激ホルモンの分泌を抑制することにあるため、卵が未熟なうちに勝手に排卵してしまわないように排卵を上手くコントロールする目的で主に使用します。また上述のショート法ではその投与初期の卵巣刺激ホルモン上昇作用も利用しています。8時間毎1日3回点鼻を左右の鼻へ行い(計6回点鼻)、指示までずっと続けます。

3.採卵時期の決定

月経7~10日目頃より経膣超音波やホルモン採血を行い、卵胞の発育を調べます。そのためこの時期は頻回に外来受診をして頂くことになります。卵胞1個あたりの血中エストロゲン値が200~300pg/mlに達し、卵胞の直径が16~18mmのサイズに達した時点でHCGという卵子の最終的な成熟を促す注射をします(本来はLHの注射をすべきですが、LHだけの製剤はまだ実用化されていないため、LHと交差性があるホルモンであるHCGをかわりに投与しています)。ブセレキュアを続けていた場合はその時点で点鼻は終了します。HCG注射後36時間で排卵が起こるため、HCG注射は夜22時頃行って翌々日の朝8時頃、すなわち排卵直前となる34~36時間後に採卵を行います。

またアンタゴニスト法やクロミッドHMG法の場合はHCG注射の代わりにブセレキュア点鼻薬を夜23時と24時にそれぞれ左右の鼻へ点鼻し(計4回)、翌々日に採卵とすることが多いです(HCGを使うこともあります)。これはブセレキュア投与初期の卵巣刺激ホルモン上昇作用のもうひとつの利用法で、LHが上昇するためHCG注射と同様に卵子の最終成熟が促されます。

点鼻薬・排卵誘発剤の効果は個人差があり、同じ量の薬でも良く効く人と、そうでない人とがいます。従って、一律に何回注射を打ったら採卵になると決められませんが、HMG注射開始より10日前後で採卵日が決まる人が多いです。

どうしても十分な数の卵胞が発育しない場合(成熟卵胞が1~2個以下)や、予想より早く排卵してしまった場合は、採卵を中止せざるを得ないこともありますので、予めご了承ください。

4.採卵

排卵直前になると成熟した卵子は卵胞の内壁から剥がれてきますので、このタイミングで超音波ガイド下に細い針を経膣的に卵巣に穿刺して卵胞液とともに卵子を吸引します。わずかに生じる痛みを抑えるため静脈麻酔下に採卵しますので、前日の夜21時以降は一切飲食は禁止となります。ただし1~2個と少ない採卵の場合は極細径の採卵針で採卵を行うため、麻酔は行いません(痛みも採血程度です)。

採卵日当日は、朝7:30に6階リプロダクションセンターへご来棟いただき、8時より採卵を行います。採卵に要する時間は卵胞数や筋腫・卵巣嚢腫などの合併の有無によって異なりますが、約15分程度です。その後はお昼頃まで安静いただき、診察・お話の後にお帰りとなります。採卵数は1個~20数個と個人差がありますが、まれに0個のこともあります(自然排卵が起こってしまった場合や、卵が十分成熟していなかったり卵巣機能悪化で卵胞が空胞であった場合などは、卵胞を刺しても卵子が吸えてこないことがあるためです)。

5.卵子を探す・成熟度判定・前培養

吸引採取された卵胞液をシャーレに移し、クリーンベンチという清潔な環境内で顕微鏡下に卵子を探します。卵子の直径は0.1mm位で肉眼でも観察できるくらいの大きさです。卵子は顆粒膜細胞(卵丘細胞)に包まれており、それごと愛護的にピペットで取り上げ、培養液に移して血液や卵胞液を洗浄します。きれいな培養液に移した後に培養器に入れます。

卵子はその成熟度にバラツキがみられることがあり、未熟なものは受精能を獲得するまでの間、数時間培養します。また成熟度に応じて更に追加培養されることがあります。

採卵

6.精子の調整

採卵日当日朝、ご主人はシャワーを使用して陰部を清潔にしておいてください。ご自宅を出る直前に精液を採取していただき、来院後、6階リプロダクションセンター胚培養室の呼び鈴を押して胚培養士に提出してください。遠方の方は胚培養室の横に採精室を用意しておりますので、同様に培養室の呼び鈴を押してください。胚培養士がご案内致します。

禁欲期間は3~4日程度が望ましいと考えられます。その後洗浄処理・良好運動精子の分離を行います。シリカ粒子を用いた成熟精子分離法、良好運動精子回収のためのswim-up法などを行った後、媒精まで培養しておきます。なお当日の精液の状態によってはもう一度採っていただく場合があるため、ご主人は出来る限り共にご来院いただき、精子に問題ないことが確認できるまでは病院で待機してください。

7.媒精

卵子への媒精は精子の運動性に応じて、精子濃度10~数十万匹/mlになるように卵子に加えます。当日の精子の状態が悪い場合や、受精障害の存在がわかっている場合や疑わしい場合などでは、精子1匹をマイクロピペットで卵子に直接注入する顕微授精を行います。また採卵された卵のうち半分を媒精に、残り半分を顕微授精にする(splitと言います)こともあります。

8.受精確認(受精後1日目)

媒精の18~20時間後(採卵翌朝)に培養液を交換し、卵子を顕微鏡下に観察します。正常な受精が成立しつつある場合には、卵子と精子に由来し遺伝情報が存在する2個の前核が観察できますが、時に3個の前核が観察されたり(多精子受精)、全くみられない未受精の状態であったりします。

時間が経つと判定が困難になるため、こういったものを分けて培養しておく必要があります。通常受精率は60~70%程度ですが、卵子・精子の状態により受精率は異なります。まれに受精が遅れ翌日(採卵後48時間)に確認される場合もあります。受精率が極端に悪い場合には、次回より顕微授精を検討する必要があります。

受精から分割

9.分割確認(受精後2~3日目)

受精後、胚は細胞分裂が始まって2細胞期、4細胞期、8細胞期・・・と分割発育していきます。2日目では4細胞期、3日目では8細胞期くらいが良好な発育となります。分割スピードが良好で、1つ1つの割球の大きさが均等で張りがあり、フラグメンテーション(細かく細分化された細胞質の存在)の少ないものが良好胚ですが、不良とした胚でも正常な妊娠出産がみられたり、追加で数日培養することで良好な発育を示すこともあり、単純には判断できません。

10.胚移植

胚移植には採卵後2~3日目に行う初期胚移植と5日目に行う胚盤胞移植(「胚盤胞移植法について」をご参照ください)があります。方法は人工授精に似ていますが、経腟超音波ガイド下に極めて繊細なカテーテルを慎重かつ確実に子宮頚管部から子宮内腔へ進めて、極少量の培養液と共に胚をそっと置いてきます。胚移植に痛みは伴わないため麻酔は必要なく、少し安静をとったあと帰宅できます。

全く受精が見られなかった場合や良質胚が出来なかった場合、胚移植は中止となり今後の方針について医師から説明があります。

移植する胚の数は、原則1個としております。もちろん移植胚数を多くすれば妊娠率が上がりますが、周産期リスクの高い多胎妊娠が増えてしまいますので、日本産科婦人科学会の勧告に従い当院ではこれを遵守して治療にあたらせていただきます。ただし年齢・治療回数を考慮して、2個までの胚移植は可能とされております。そのため、胚移植できない余りの良好胚が生じることがあります。

その場合、次周期の治療や2人目3人目のご妊娠のためにご希望により胚の凍結ができます。良好胚の凍結融解胚移植の成績は非常に高いため、基本的にはすべての余剰良好胚の凍結をお勧めしております(「胚の凍結保存と融解胚移植について」をご参照ください)。

受精から分割

11.移植後のホルモン補充療法

胚移植後は、激しい運動でなければ仕事を含めて通常通りの生活をして問題ありません。安静にしていることが妊娠率を高めることは無いとされています。ただし、卵巣過剰刺激症候群が発症した場合には安静が必要となります。

移植後には胚の着床を助けるために黄体補充療法として黄体ホルモンの内服や注射、膣座薬の使用などを行います。同時に卵胞ホルモンの補充を行うこともあります。卵巣刺激の際にGnRHアゴニスト製剤を使用した場合には、黄体刺激ホルモンであるLHの分泌抑制が起こり通常の黄体機能が維持されないため、特に十分な補充が必要で、場合によっては妊娠判定後まで連日の注射を必要とします。

黄体補充療法としてHCGを用いることもありますが、その場合は卵巣過剰刺激症候群を悪化させることがあるため、尿量の減少や腹満感の出現などに、慎重に気を配る必要があります。

12.妊娠判定

胚移植後2週間で血中HCGを測定し、妊娠の有無を判定します。残念ながらご妊娠に至らなかった場合は、通常2~3ヶ月あけて次回の体外受精を行うこととなりますが、胚凍結を行った場合なども含めて次回の予定は医師との話し合いにより決定します。